▼ 第3夜 「獣道という名の王道」
カイリ達はなんとか見知らぬ男のおかげでエルファーは返してもらえたが、見知らぬ男は風の魔術で風力を無にしたため現在修理に出している。
その間夜で任務を終わらせ、そのまま帰国すれば良い話だ・・・
6時を過ぎた夕暮れ、人があまりいない宿屋で休息をとっていた。
「疲れましたぁ〜・・今日一日で色んな事ありすぎですよぉう??」
「確かにね・・・エルファーは盗まれるし、変な男と会うし、壊れるし、下劣言われるし」
呑気にサユリが足をベットの上でバタつかせている一方、カイリは枕に顔をうずめながら、下劣の部分を若干声のトーンを落とし小声で呟いていた。
小言とはいえ部屋自体広く無い為サユリには聞こえていおり
「まだ気にしているんですかぁ?」と、多少苦笑いでフォローする気も起きなかった。
「一応ウォルト家の人間なのに、なんか自信損失?したわ・・
兄様はそれに相応しく育ったと言うのに、私は何をしているのかしら・・・」
(まじで落ち込んでるんですけどぉ・・・)
豪族だからそれなりのプライドや自信があったのか、カイリはサユリの思っている以上に「下劣」が響いたらしい。
もちろんそんなプライドや自信なんて一般軍人のサユリに共有できるはずもなく、逆に「そこまでぇ?」としか思えないのであった。
「そういえばカイリ先輩のお兄さんってどんな方なんですかぁ?
ってかお兄さんいたんですねぇ〜」
意外な発見、もしくは新たな玩具でも見つけたかのように目を輝かせながら、好機の眼差しをお構いなくカイリへとあびせる。
今のカイリにはそれすらツッコム気も起きず、そういえば話していなかったか・・・と考え直すだけである。
「いたわよ・・名前はロン=ウォルト。ちょうど4歳年上で、上級魔術師だわ。
回復は初級魔術ならできて、接近戦は全然だけど他の魔術についたならお手の物だったわ。
性格は裏表無しで、軍人なのにお人好しで・・・そのせいで戦死しちゃったけど」
脳内で思い出す兄の姿なんてうろ覚えだった。
ただカイリが6歳の頃に兄が軍人として入会して、15歳になった時きたのが
戦死届け一通のみだった。その後カイリは逃げるようにメルリウムへと逃げ込んだのだ。
先程の空気より暗さを増すと「すみません・・」とサユリが視線を落した。
それを聞いてカイリは「いいのよ」とだけ言い残すと、まだ眠くも無い目蓋を下ろしその宴時まで仮眠をとる事にした。
(そういえば・・・ロン兄様はどこの軍に入会したのかしら・・・)
ふと疑問に思った。
軍へ入会したのは知っていても、どこの軍へ入って、
どの戦場で死んだのかなんてまったく知らされていない事に気付いた。
--------------------ユーリア軍事施設内にて
「いやぁ!!ユリア、本当に今回はおめでとう♪
私も今回の件では本当にユリアを心配したんだぞ??」
赤い豪華なソファーに背もたれながら、場に合わない声を張り上げるグラン。
そこにあったワインを勝手に注ぎながらそれを一飲み。
「あらら・・・心配させちゃった?
ごめんなさいね〜。でも心配の種も減ったじゃない?良かったじゃないの」
グランの勝手な行為にも和らげに対応をしながら、柔らかい笑みを見せる女性。
その女性を「ユリア」と言われていたことから、彼女がこの施設の管理長だということが伺える。
「心配事の種が余計に増えたぞ?つーかなんで種族を偽造したんだ?
ハーフエルフと公表すれば、そりゃ反感を買うだろうが・・・
サユリぐらいには正式なの言ったらどうだ?」
空のワイングラスを眺めながら少し頬に朱をかけたグランは、ほろ酔いしながらもしっかりと言葉にした。
その空のグラスに気付くとユリアは、それに付け足すかのようにワイングラスに赤いワインを注いだ・・・
「だって「またエルフかぁ」なんて思われたくないのよ。
昔ながらの法則に縛られていたら、いつまで経ってもユーリアは変わらないわ。
それにサユリに言ったら、あの子いつポロっというか・・・」
「確かにwww」
小さく笑いをこらえながら肩を震わせるグランのコロコロとした表情に、我が子を眺める様な感じで見つめるユリア。
その視線に気づくと、何か思いついたかのように「んー?」とうなった。
「・・?どうしたの?」
「んー・・ユーリア軍事施設管理長ユリア・・・かぁ・・
なんかオヤジギャグだな」
「それ言わないでくれる?」
自分で言った筈なのに自分でツボにはまった彼を見るには少々呆れるしかなかった・・・
「それに・・・このぐらいしないと、私の罪は消えないし」
一瞬目を下に落して視線を泳がせながら消え入りそうな声の中、懺悔のようなことを口にしていた。
「はい?」と聞き返したまだ笑いを堪えるグランには、「なんでもないわ」っと言いまた空っぽのワイングラスにワインを注いだ
-------------------キルス宿屋にて
すでに灯りが消えた街中の中の宿屋。
カイリは重たそうにその身を起こすと、軽く欠伸をした。
浅い眠りだからか、まだ疲れなど少ししかとれていない。
本当ならば今日一日、ゆっくり休んで体を休めるつもりだったのだ。
パーティーはともかく、任務だと言われてしまってはしょうがないため
半端諦めが入りつつ「仕方無い」と、まだだるい足を冷たい床につけた。
「せんぱ〜〜〜〜い!!!!」
部屋の外から、悲鳴に近いサユリの声が響いた。
どうやらサユリはカイリよりも早く起きていたらしく、ほんの少し真面目に感心している。
先程もいったように今は灯りがついていない=夜なのだ。
朝同様、サユリはまたもやそんなのお構いなしに迷惑をかけている。
これはムードメーカーの域を超えているだろと思いつつ
「どうしたの?サユリ」
黒いノースリーブの上から白いジャケットを羽織りながら部屋の外へと出て見ると・・・
昼買ったドレスを両手に持って、サユリがうってかわり小声で話す
「着け方がわかりません・・・」
「最初っからそのぐらいの声で言ってくれる?」
更に呆れつつカイリはサユリに指摘をしながら、サユリ自身に着けさせていった。
慣れないサユリの手つきな為同じ指示を何度も言ったのは言うまでもなく、
不安ながらも「わかりましたぁ・・」という返事を聞けば、カイリも持参したドレスを着用し始めた。
カイリのドレスは薄い緑がヴェールでのった白をベースにしたドレスだ。
カクテルドレスのように緑のヴェール部分は斜めに腰まで持ち上げられており、
腰部分はコルセットで固定され、そのヴェールを固定しているのは青い宝石。
首元以外は露出がないタイプだった。
「なんで首元だけ空いているんですかぁ?」
そんなドレスに不審に思ったらしく、サユリはげんなりした表情で問う
「お母様の形見のペンダントをつけたいのよ・・」
そういってバックから青い宝石が飾られたペンダントを見せた。
青い宝石の周りには小さい真珠が丁寧に飾られており、何より宝石の土台になる淵が透明な為更に惹き立てている。
灯りも光もないのだというのにその形がはっきりとわかるぐらい、それは存在を示す様に美しく輝いていた
「うわぁ〜・・・綺麗ですぅ」
目を輝かせながらそのペンダントに見入るサユリに無理もなく、なぜかカイリは照れ臭くなっていた。
「お母様が10歳の時にくださったの・・・
ちょうど誕生日の日、ちょうど10年前ぐらいね」
寂しそうな表情でカイリはそういいつつ行方不明の母の顔を思い出せば、
その思い出入るペンダントを首に飾り付ける。
空いた首元はちょうどペンダントで埋められ、それをつけただけでカイリが貴族なのだと改めて思い始めるサユリ。
髪は後ろに盛り上げ、金の髪飾りで止めると、滅多にピアスをしないカイリでも今回はピアスをつけていた。
仕立てて行くカイリを見ていれば、サユリの手が止まっている事に気付き、タメ息をもらしつつサユリの手伝いをする。
サユリの髪型は少しパーマを当て、髪飾りには百合を斜めに飾ってみる。
アクセサリー等もつけようとしたがサユリがなぜか断固拒否した為、
軽く舌打ちをしながらも全てセット終えて見ると、どっかの令嬢に見えるサユリである。
「凄い綺麗だわ!誰もサユリが軍人だなんて思いもしないわよ」
「・・・・先輩、コレ超絶無く動きずらいです」
ぼそっとサユリが言うのを気にせず、カイリはサユリの手をひいた。
そうごだごだと言ってられないのだ・・・
なにせもう9時になる30分前。
主役となる自分が遅刻をするのは、どうりで気がむかない。
そんなことを思うカイリであったため、その格好のまま宿屋を出た。
ウォルト低はこのキルスにあるため、しかもこの宿屋からは差ほど遠くは無い。
っとはいえウォルト低は木々を抜けた先にある広い場所に建てられており、その木々というのが宿屋の裏側にある木々なのだ。
サユリの手をひきながら宿屋の裏側に行くと、獣道と言って良い程の木々の中に入って行く。
「歩く場所ありますかぁ?」というサユリに対して、「ここからが近いの」とだけ告げて、ずかずかと入り込む。
一般の貴族達が決してやることのない行動だ・・・・
「ぎゃぁあ!!!もう動きずら過ぎますぅう!!!
なんで先輩そんなずかずかと、獣道歩けるんですかぁあ!??」
サユリはまだ木々の入った入口付近でもたもたとしているのに、一方カイリは半分地点にいた。
さすがのカイリでもドレス姿で獣道を歩く経験なんてないはずなのに、
なぜこんなに早く中に入れるのかサユリは不思議でたまらない
「え?シェルターはっているもの」
しかしカイリは当たり前といった表情でその答えを容易に答える
「・・・・・・・・・はい?」
恐る恐るサユリがカイリの足元を見ると白く光っており、それはカイリの足元を回りから遮断していた。
シェルターとは光属性にあたる下級魔術。
消費などもそこまでなく、魔術の効果は、対象者の足元から障害物をさけるというのが
基本らしいが、使い手の魔力によっては足元以外も外部から遮断ができるらしい。
「うわぁ!?」
一瞬弱い風が足元をよぎると白い光がサユリの足元を包む。
いきなりだったためか、大袈裟に反応を示す
「サユリは多分シェルター実習時、グランと喧嘩していたわね・・
特別にかけてあげるから、さっさと歩いて頂戴」
ジェルターは下級魔術ではあるが、二人分張るとなると体力の消費も激しい。
その為滅多にカイリは他の人にシェルターをかけることをしないが、
任務とはいえ私情でサユリまで連れてきた為、このぐらいの気遣いはというのと時間の都合上でもある。
シェルターかけるまえよりも歩きやすくなったが、サユリは元から歩いたりするのは遅い・・・
そのためカイリとの距離は先程と変わらない。
「アンタにはかけなくても良かったわね」と、最終的にはカイリに言われる始末
そうやっているうちにカイリ達はとある広い所へと出た。
達といってもサユリはいまだにカイリから離れた場所にいる。
「ウォルト低・・・」
懐かしく恋しくともいわず、ただ緊張の汗しか出ない様な・・・そんな気持ちのカイリであった
(・・・伯母様達とは会いたくないけど、レンリア軍事施設の事を言わなくちゃ。
それに・・・・・)
「カイリぃ・・せ・・・んぱいぃ?・・・おぉおお!!!
これがかのウォルト家のウォルト低ですかぁ!!??感激ですぅ!!!」
やっとで出てきたサユリは一瞬カイリの気に気付いたが、
ウォルト低の偉大さに感激を覚え一瞬にしてその心配は吹き飛ばされた。
「先輩先輩せんぱぁあ〜〜いぃ!!!
やっぱり豪族ともなればあんなに大きな家になるんですねぇ!!!
施設一個分!?いやそれ以上ですかぁ!!???」
いまだサユリの瞳の輝きは失うなんて知らず、輝きを更に増して行くばかり。
そして空気読めないサユリはカイリに同意を求めているが、もちろんカイリはそれにさえも黙秘を通している。
(ロン兄様のこと・・・聞いてみよう・・・)
なぜか今日はそう決意ができた。
いつもなら嫌いな人物がいるという理由で行かず、聞きたい事も全て謎にしてきたというのに・・・
グラン隊長が「任務」と言わなければ行く気もしなかったパーティー。
改めてそう思ったらカイリはグランに感謝しきれない。
母の形見であるペンダントを優しく撫で強く、しかし優しく握った。
「ほら、サユリいくわよ」
視線を真っ直ぐウォルト低に向けながら、今だはしゃいでいるサユリに声かける。
っと・・・・
「・・・ぇ」
そこに映った光景は予想も想定もしていなかった出来事だった
「どこの令嬢でしょうか?こんな暗闇で華を咲かせて・・・」
「え・・・えっとぉ・・・・」
「私も見た事がない娘ですね。初参加かな?」
「は・・・はつぅ・・参加ですぅ・・けどぉ」
そう、サユリが何処も知れぬ貴族にナンパされているのだ。
確かに先程までサユリのこと無視していたけれど、まさかここまで自分から離れているとは思うこともなく、
はしゃぎに身を任せていたサユリは捕まったらしい(別の意味で)。
タメ息を1つつくと、カイリはサユリの元へと歩み出す
「貴殿達、その方は私の友達ですの。ちょっと人見知りが激しい子で・・・・・」
それだけ声かければ十分だった。
カイリに声をかけられた男性二人はカイリの顔を見ると、バツが悪そうな表情になる
「こ・・これは!!ウォルト様ではありませんか!!!」
「御機嫌よう、少し私達は急がなければいけませんので」
戸惑っているサユリの腕を掴むと少し足早になりつつ、シェルターの魔術を解除してウォルト低の入り口付近まで避難をした。
足早になったのはもちろん、なぜこんな獣道から来たとか、ウォルトの人間なのになぜ魔術を他にかけているのかとか・・・
色々ややこしい事を聞かれる前にだ。
魔術の気から離れた為多少気が抜けたカイリは、はぁー・・と一息つく
「サユリ・・・貴方、勝手に離れないでよ」
少しキツイ目線でサユリを睨めば、ビクッと驚いたらしく肩を震わせ伏せ目になる
「すみません・・・だってカイリ先輩無反応だったし暇だったのでぇ」
軍人だとは思えない発言にタメ息しか出ないカイリ・・・
暇だったからって・・・・と呟けば、またサユリはすみませんってば!と涙声になりつつある。
「普段なら招待された人間以外は駄目なんだからね?
私から離れたら門番とかに捕まって色々厄介なんだからー」
確かに一般人が通っていたら門番、いや言動からして妖しい人は捕まって、招待状の確認や身分の確認などの点検が入って大変なのだ。
「そ!!それよりぃ!!!時間は大丈夫なんですかぁ!」
「誰のせいだと言うのよ・・・」
ウォルト低に入る前に門番からのチェックを顔パスですませ、サユリの説明も友人といいゲートを突破しながら二人は言いあっている。
会場に入っていない廊下でも、カイリを見れば声援らしき声やひそひそ話やざわつきが更に一層に増した。
「先輩ぃ・・・」
「サユリ、ウォルト低にいる間は「先輩」は無しよ」
怯える小声はすぐにカイリの説教へとなるが、その注意ともよぶべき説教をきくと、さすがのサユリもこれには断固拒否を示す。
「だ、だ、だ、駄目ですよぉお!!!」
あまりの出来事で大声で叫べば周りが更に視線を向ける。
羞恥心のせいでサユリは顔を火照らせ、魚のようにパクパク口を開き閉め。
パニック状態に陥りそうなサユリに、冷静にカイリは口に人差し指を当てる
「周りの貴族達は私が軍人だって知らないわ・・・
それに、レンリアにばれたら任務は失敗になるわよ?」
「そう言われましても〜・・・!!!」
顔は赤くなるわ、涙声ついでに涙目になるわ。
今日のサユリの変わりっぷりはいつも以上に忙しそうだ。
そんなことしているうちに会場につけば真っ先にカイリ達を迎えたのは・・・
「あらカイリちゃん!!!やっとで帰って来てくれたのね〜
伯母さん達心配していたのよ???」
カイリが何よりも苦手にしている伯母達であった。
嫌ではあるが社交辞令である為、愛想良く笑顔とまではいかないが無表情で伯母と伯父を見直しながら淡々と告げる。
「お久しぶりです、伯母様。そして伯父様」
その言葉を一緒にサユリはおどおどしながらも深くお辞儀をする。
カイリは身内のためなのか、軽くしかお辞儀をしない。
そんな二人に対しても二人は人の良い笑顔を二人に向けている
「おや?カイリちゃん、その子はどなたかな?」
「私の大切な友人にあたる、サユリ=ベルスです」
「は、始めましてぇ。サユリ=ベルスと言いますぅ」
サユリの独特な語尾に母音のつく喋り方に、やはり二人は「え」という顔をするため、
カイリは一度サユリに注意変わりに睨みを効かせる。
(そんな事言われてもぉ〜!!!)
サユリのはただの口癖で、いきなり直せと言われて直せないものだ。
タメ息もしたいところだが、さすがに二人の前な為それは抑える。
「コホン・・・積もる話もあるだろうし、奥室の私達の部屋へと行こうか」
気まずい雰囲気から最初に話を切り出したのは伯父であった。
伯父の意見に賛成のように、伯母は優しく頷いて答えた。
「そうよそうよ、カイリちゃん。それにサユリ・・・ちゃん?でいいかしら?」
「は、は、は、は、はあああいっ!!!???」
ギコチナイ接し方がなんとも・・・といったカイリは思った。
驚きつつも苦笑を浮かべる伯父伯母を見ながら心の中で冷や汗しかでない。
(・・・これでやっていけるのかしら?)