▼ 第5夜 「ダンスパーティー」




「カイリ先輩ぃ・・・遅すぎますぅ・・・」

カイリがサユリを置いていって、かれこれ一時間が経つ頃。
パーティーが盛り上がってきているというのにパーティーには参加せず、皿に盛ったケーキをフォークで口に運んでいた

ちなみに5杯目のケーキである

「まぁ!!おいしい食事も食べれますしぃ!!
こんなオイシイ任務ならいつでもどこでも行きますぅ♪」

どうやらサユリはウォルト低で出た食事(とはいえケーキ)しか食べていないのに、とても満足そうな表情でフォークを休めない。
っとはいうものの、「派手な行動は控えるべき」とカイリに念押しされたため、人目につかない柱にもたれている。
多分カイリが念押ししなくても、ケーキしか食べていなさそうなサユリだが

「ってぇ・・・本当にレンリア軍人がぁ、ノルウェーが紛れているんでしょうかねぇー」

ふと任務内容に振り返ってみるが、自分達以外の軍人らしき人物なんて見当たらない事に
怪訝そうな表情で小さく呟きながらフォークを銜える。
サユリ達のように変装している可能性もあるのだが、もしもノルウェーが本当に参加しているならば
軍事施設の管理長というお偉いさんクラスな為わからないはずがない。
ましてやこういったパーティーでもそういう人は目立つ筈

「・・・グランの情報ミスっていうのが一番幸せなんですけどねぇ」

それでも怠らず目を細めながらも周りを見渡している時・・・


「あれぇ?あれってぇ、カイリ先輩ぃ?」

どこからかカイリが現れたかと思えば、一人の少年の手を引いてダンスの輪へと入って行くのを目撃。
確か親族と話し合いにいったんじゃあ・・・と思いつつ、意外にも楽しそうな表情であったカイリにタメ息がもれる

「私が独りで寂しく柱にもたれながら待っていたというのにぃ、
カイリ先輩は若い男とイチャイチャですかぁ!!!そうなんですかぁ!!!!」

やけ食いにも近い食べ方で乱暴にケーキを口に放り込む。
パーティー会場にウォルトであるカイリが入り込んだことで周りがざわつき、
カイリに引かれている少年にも視線が注がれている事に気付く。
「うわぁ・・可哀想ぅ」と一気にクールダウン

「おお!!レンったら積極的じゃねぇか!?」

場に合わない幼さの残る声の方に視線をチラッと覗けば、
先程みた少年とは違う落ち着いた黒髪の少年が何かに騒いでは妖しい笑みを浮かべていた。
その黒髪少年の違和感に気付くと、サユリは耳だけをたてて音に集中した

「カイ、声がでかすぎる・・・」

次に聞こえたのは黒髪の少年とは違う低い声で、とても落ち着きのある音色だ。
チラッとまたみれば、金の長い髪をした青年がその少年の隣にいた。
どうやらこの黒髪の少年は「カイ」という名前らしく、金髪の男が注意しても詫びる様子もなく笑って飛ばしているだけ

「だってウォルトの人間にあんなにも接近できるなんてさ!!!
馬鹿みたいに物事が進んでチョ―うけるんだけど!!!」

ウォルトという言葉にサユリは反応した。
(今・・・こいつぅ、ウォルトって・・・・)と、眉間に皺をよせながら聞く

「まぁ、それは一理あるが。お前がまた前みたいに、独断でウォルトに近づこうとしなければ任務は成功するだろうな」

「だーかーらーー!!!あれは、エルファーが盗まれて困っていたから
割り込んだら「あらなんと!!」って感じだったんだよ!!!」

「それでもだな・・・・」

エルファーが盗まれて・・・?
サユリの脳裏に浮かんだのは、ドレスなどを取りに行った日のこと。
貴族の夫婦に盗まれて、そのときに・・・


「はいは〜〜い、そこの山姥??言いがかりももう少しまともにしなよ」


(もしかしてぇ・・・・!!!!)

再度確認のためカイと呼ばれた男をみると、そこには見覚えのあるものがあった。
黒いケープの交差点を抑える止め具が、あの時会った軍人と同じ、軍の紋章らしき紐止めワッペンで止められていた

(間違いない・・・軍人だ・・・)

静かにその場から離れると、ケーキを取りに行ったフリで
ケーキがたくさん並ぶテーブルまでゆくと、先程まで持っていた皿をおき速足にバルコニーへと向かう

(グランに報告と先輩に警告をぉ!!!!)

その焦りからか、バルコニーへ向かいながら通信機を開き
急ぎでカイリからメッセージの内容を簡潔にし、グランにメッセージで報告をする。
夜風は妖しく木々をざわつかせ、それが更にサユリの不安を覆った

「先輩ぃ・・・早くぅ・・・早く通信メッセージに気付いてください・・・」



パーティー会場は5曲目に突入していた。
有名楽師メデュース作曲「レディース」は、その名に相応しく最初っからクライマックス状態であった。
シンバルが大きく鳴り響き、フルートは低い音から高い音へと階段を上るかのように音階を綺麗に昇っていっている

「・・・・本当にまったくできないのね」

「・・すみません」

呆れというより唖然とするしかできないカイリに対し、レンは慣れないダンスに息をきらしていた。
サユリの願いも虚しく、カイリのいる場所は一番オーケストラ団に近い舞台。
大きな音達によって通信機の音はカイリの耳に届かず

「でも、始めの時よりは随分良くなっているわ!!!今度はサビから入りましょ」

慣れているカイリは息切れなど当然しているはずもなく、力無く笑うレンに対して優しく微笑む。
最初は輪に入った途端に、やはりウォルトという事で視線が一気に集まった。
そして案の定、手を引かれていたレンに対しても視線が注がれる。
レンはそれに対し更に青ざめて逃げようとしていたがなんとかなだめた

(今一人になったら・・・・レンリアのノルウェーやレンリア軍人に目をつけられかねないものね)

シーザスの件もあったが、もちろんカイリも任務を忘れてなどなかった。
レンと踊りながらも周りにレンリア軍事施設関係者がいないか目配りしながら、レンに気も配っていた。
目配りをするなら、カイリのいる場所からの方がとても適任なのだが・・・ここはダンス会場となる中心部にも近い。
ダンス相手がいないのに輪の中に入ればかなり目立つ。
かといって知っている男性の知人なんて限られている

(レン君には悪いけど・・・付き合ってもらわないと)

明らかに場馴れしない少年を利用することで罪悪感も湧いていだが、レンリア軍事施設軍人をほっとけもしない

「でも、ウォルトさんのおかげで大体のパターンは覚え切れました!!」

「様は・・・やっとで抜けたのね」

とりあえず先程からは「敬語無し」「呼び捨て」と散々いったのだが、「様」が「さん」へ変わっただけである。
変化には嬉しいのだが色々複雑であるカイリ

「あ、そろそろサビに入りますね・・」

「そうね・・・はい、手を」

少し戸惑いながらも、最初よりはスムーズになっていた。
どうやらこのレンという少年は、すぐに慣れてしまう性格なのか・・・
だがウォルトが相手だからなのか、言われても慣れてはくれない。
差し出された手をとると、それに合わせるかのように音楽も大きく膨れ上がる音楽。
カイリ達が踊りだそうとした時・・・・


ピキッ・・・


静かな亀裂がはいったと同時に、オーケストラ団の真上天上が人がいるにも関わらず無残に天上の一部が落ちてきた。
もちろん、逃げる隙などなくオーケストラ団は金属等の音を立てそのまま下敷きとなっていた

「え・・」

「ウォルトさん!!!そこにいては危険です!!!」

あまりにも一瞬の出来事でそれをただ見ているカイリを、今まで消極的だったレンが勢いよくカイリの腕を引きその場から離れる。
それが合図かのように、周りの貴族は悲鳴などを上げ逃げまどい始める。
悲鳴が響き始め、初めてカイリは状況を呑んだ

「な、なにが・・・」

腕を引きながらもう片方の手で通信機を開き、レンがなにやらパネルの操作をし始めた。
不思議そうにただ眺める事しかできないカイリに気付くと、ふと柔らかい表情で「安心して」とでも言いたげな笑顔を向ける

「・・・天上から幾つもの生命体反応と魔脈反応がありますね」

パネルを畳んで通信機の中へと戻しながら、そう冷静に判断していた。
それよりもカイリはもっと驚く事を見てしまった。
一般市民はこういう状況で、通信機などで状況の確認をとったりしない・・・例外人物ならいる・・
軍人であるカイリとサユリなら、こういった状況になれば確認をとる。
いや、軍人ならそれはして当たり前なのだ。
だがその軍人で当たり前の行動を、このレンという人物はやっていたのだ

「レン君・・・貴方・・」

質問を投げようとしたが別の方向から悲鳴が聞こえ、そこを見れば獣型のモンスターが貴族や一般警備兵等を襲っていた。
カイリは軽く舌打ちをすれば、通信機を開きボックスパネルを展開させた。
ボックスパネルのパスワードをといて、そこから出てきたのはカイリが着替える前まできていた軍服。
パネルでOKを出せば、光の魔力の粒子がカイリを全体的に覆い、その光がなくなる頃にはドレスから軍服へと変わっていた。
この通信機能は軍人であるカイリ達にはありがたい機能であり、ボックスパネルは服や武器などを収納できる優れた機能なのだ

レンは一瞬驚いた顔でいたが、すぐにどこから出現したかわからないモンスターのいる方へと走っていった

(やっぱり・・・レン君は一般貴族の類じゃない)

魔力の粒子による服装チェンジではあるが、普通の貴族が見れば「はしたない!」と一括あげる。
だがレンは少し驚いただけで何も咎めず真っ直ぐモンスターのいる方へ向かった。
・・・モンスターの方へ向かう時点で一般じゃないが・・・

カイリも急いでそこへといく

「ふぎゃあああああ!!!カイリせんぱああああいいい!!!!」

モンスターの悲鳴とは程遠い、情けない悲鳴が先にカイリを襲う。
はぁ?という言う暇もなく、気付いたらサユリが泣き顔しながらカイリの胸にダイビングしてきた

「さ、サユリ!?あんた、無事?」

「無事もくそもアホも馬鹿もないですよぉー!!???
むちゃくちゃ怖かったんですよぉお!!!!」

剥がしたいのは山々だが、モンスターでここまで泣くサユリが珍しく、カイリはタメ息しかもらせない。
普段ならビビり過ぎて泣く暇もないのに・・・

「それに先輩はいつまでたっても返信しませんしぃ・・・私の心のサバイバルですぅ」

返信?と疑問符しか浮かばず、「そういえば・・・」とカイリはまた通信機を出した。
先程ボックスパネル操作の時に、メッセージの着信があったような・・・
開けばやはりサユリからのメッセージがあり、通信機を開くカイリにサユリも疑問符が浮かぶ

「・・・先輩ぃ、もしかして見てないんですかぁ?ってかいつのまに着替えたんですかぁ?」

サユリの疑問符など気にも留めず、カイリは送られてきたメッセージを開く

【レンリア軍事施設軍人の可能性有な不審物発見ですぅ!】
「なんでこんな重要な事をさっさと言わないのよ!!???」

「その時カイリ先輩若い少年といたじゃないですかぁ!!!」

悲鳴が飛び交う中そんな事を言い合う二人だが言い合っても何も解決しない。
舌打ちをしながらボックスパネルから、カイリの武器であるワイヤーナイフマークを
タッチすれば粒子となりカイリの太股部分に金属の武器が出現。
出現したワイヤーナイフを難なくそこから取り出すのだが、なぜかサユリはそれに驚いた表情をしていた

「なんですかその機能ぅ!?」

「・・・あんたもしかして武器も軍服も、それ以前にボックスパネルわからなかったの!!!???」

呆れしか出ず、カイリはワイヤーナイフを投げて微力ながらもモンスターに傷を負わして行く。
元々カイリは接近戦は苦手であるため、攻撃力もそこまでない。
しかし入口付近を狙うウルフ型のモンスターをほっとく訳もなく、そのモンスターに少しの魔力を乗せ攻撃を加える。
ワイヤーナイフ自体も殺傷力低い為、ただかすった低度だがモンスターの気をひくのには十分で。
案の定モンスターは振り向き、カイリ達と目が合う

「ぎゃああああああ!!!!!!!!?????
カイリ先輩の馬鹿ああああ!!!モンスターこっちにねら
「一般市民に傷を負わせたら駄目でしょ!?私達が気を引かないと・・・!!!」

もう今にも泣きそうなサユリの背に、戦闘態勢を整えるが勝敗は難しい・・・
ましてやサユリは武器を持っていないご様子・・・
「ちょっとやばいな」と思いつつ、ワイヤーナイフを構えた時

「紅蓮に燃える生命の炎よ、その活力を元にし生命を焼き尽くせ!!!
バーストフレイム!!!!」

幼さの残る声が響くと、入口付近に集っていたウルフ系モンスターが灼熱の炎に呑まれ苦痛の音を鳴らす。
入口付近にいたカイリ達はとっさに避けた為なんとか免れたが・・・

「あっぶなああいい!!!じゃないですかああ!!!??」

「んだよ、苦闘していたじゃねーかよ」

カイリ達の後ろから先程の幼さの残る声が聞こえ、ふとそこを振り向けばやはり幼さの残る少年らしき人物がいた

「あああ!!!??先輩ぃ、こいつですよぉ!!!
レンリア軍人施設関係軍人の可能性のある軍人ってやつぅ!!!」

サユリはぎゃああと言うほどに声を荒げると、はあ?と言いたげな表情をしている。
まぁ普通は本人の前でそんな事言わないんだけどね・・・

「助けられた癖にぎゃーぎゃーうるっせー大食い女だなー」

明らかに「五月蠅い」と片耳を抑える動作をしながら、次は詠唱なく先程と同じ魔術をモンスターに喰らわしていた。
そしてカイリもふと思い出した。この乱暴な喋り方や幼さの残る声・・・・

「エルファーの時の・・・?」

「カイ!!レンと俺で一般市民は全員誘導させた!!!」

炎がモンスターを焼き払った入口から金髪の男が走ってきた。
レンという名前に「え?」という疑問しか出ず、「センキュ〜」とご機嫌よさげにカイと呼ばれた人物は告げる

「んじゃ、ガイナンもモンスター討伐に当たってくれ!!!おい、そこのメルリウム軍人!!!」

「はぁあ!?軽々しくうちの軍名出さないでくれますかぁ!?レンリア軍事施設の犬めぇ!!!」

あぁ!?と、サユリの爆弾発言にカイも荒げる。
仮であってもレンリア軍人らしき人物に喧嘩売るなんて・・・そしてカイリはふと、カイに問う

「なんで・・・私達がメルリウム軍事施設の軍人だってわかったわけ・・・?」

その問いに「そういえばぁ」とサユリも疑問符を投げる。
舌打ちをしながら「モンスター討伐からだ!!」とはぶらかし、そのままモンスターのいる場所へとつっこんだ

「カイの無礼な態度、どうかお許しください・・・貴方達も会場から出た方が良いでしょう。
特にウォルト様、貴方様に何かあっては非常に困ります」

カイの行動に対し深々と頭を下げると、入口の方を指しながら促す。
しかし、ここはウォルトであるカイリにとっても別荘当然だ。
そこが襲われたから自身が逃げては駄目とどこかで思っていた

「いえ・・・私は」

それを言葉にしようとしたとき、どこからか鳥の型をしたモンスターがカイリ目がけて突っ込んできた。
胸元に痛みが走ると同時にそのモンスターはそのまま入口へと向かった。
ガイナンと呼ばれた青年はモンスターを追いかけようとしたが、怪我人をほっとけないらしくすぐさまカイリへと歩み寄る

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ・・私が油断していたから・・・」

「うわあ・・・カイリ先輩、首元から胸元まで結構いきましたねぇ・・・」

サユリの言う通り先程のモンスターは爪が長く鋭いらしく、首元から胸元まで微かに痛みを感じる。
ボックスパネルで着替えていて良かった・・・と改めるが、首に違和感を感じて首元に手を当てて見る。
サユリは「痛いんですかぁ?」と問うが、その答えは答える事無く。
ただカイリは青ざめていく

「母様の・・・形見のペンダントがない・・・」

ドレスはボックスパネルに収納していたが、大切なものということもあり
カイリはつけっぱなしだったのだ。
下げていた首元にはその重みさえもなく、ただひっかき傷だけ